感想『桐島、部活やめるってよ』もっと早くこの映画に出会いたかった!

もっと早くこの映画に出会いたかった!『桐島、部活やめるってよ』

映画『桐島、部活やめるってよ』

▼予告編はこちら

日本アカデミー賞の作品賞、監督賞、編集賞、脚本賞になった名作です。

今回は、この一風変わったタイトルの映画レビューをシェアしたいと思います。

この映画、ロケ地が高知県の高校なんですね。

それも初めて知りました。

インパクトはここ数年で一番

この映画、皆さんも見ていただければ分かると思いますが、ちょっと普通の映画じゃないです。

いやだいぶ変わってます。

まず、タイトルの「桐島(♂)」が出てこない。(正確には一瞬だけ)

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▲コイツが桐嶋だ!!

まずこれがぶっとんでるな~と感じました。

そして主人公というか核となる人物が何人もいます。

正確にはいろんな登場人物のそれぞれの視点&時系列で物語(映画)が進んでいくという感じです。

だから一日をいろんな視点で何度も繰り返し描かれていくという作りになっています。

初め見たときは「何だコレ!?」と思いましたが次第に納得。

なんだか新鮮な手法だなーと思いました。

そして内容も、高校生の学園ドラマなんて枠にははまらない深~いテーマが描かれていました。

これは大人でも見入ってしまいそうです。

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今、自分が愛せない人、劣等感を感じている人に見て欲しい

 映画のネタバレはしませんが、この映画に出てくる登場人物達は、明確な「スペック(能力ステータス)の違い」が設定されていて、それが彼らを引き立てて、どの人物も魅力的に映りました。

世の中には、勉強もスポーツも何をやってみても上手く出来ない人がいる反面、スポーツや勉強など少しやればコツをつかんでソツなくこなせてしまう人がいます。

僕は学生時代、どちらかというと前者のほうでした。

特に僕は要領が悪く、どんくさかったです…

学生時代の僕はなぜか、万能にこなす後者のタイプの人間とよく比べられてダメ出しされてきたもんです。

うちの母親はアホみたいにプライドの高い人で、だいたいクラスメイトで一番スペックの高い人と僕を比べては叱咤していました。

自分が学生時代に一番苦痛だったのがこの部分で、いくら僕が頑張っても、万能タイプの人に勝てないという現実を受け入れがたい辛さでした。

負けるばかりだと当然面白くないですよね。

今思えば当然とはいえ、だいたい何やっても万能にこなす人に僕は負け続けたのです。

だからそんな「勝てない自分」を罵り、すっかり負け癖がついた自分が嫌いでたまりませんでした。

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今思うと、実に世界観の狭くもったいない学生生活だったな~と思います。

世界はもっと広いのに…

学生生活ってのがいかに閉鎖された狭い世界かっていうのも、大人になって気づいたのですが…もう遅かったです。

でもこの映画に出てきているいわゆるスペックの低い主人公は、最終的に自分の立ち位置をしっかり受け止めて、その中で自分のペースで青春を楽しもうとしてたわけです。

逆に何でもそつなくこなす万能タイプの生徒が、そこそこ器用にこなせてしまうがゆえに「目標とかそういったものを見出せない事」に対して凄く悩んでいたのも、彼ならではの視点として印象的でした。

小手先だけて器用に生きれるから、何かに一生懸命になれない自分。

なんのために生きているか、その意味がわからなくなった人の声を分かりやすく表現していると思います。

それを、この学園という狭い世界観で上手く表現してるなーと。(しかも二時間という上映時間内で)

自分の置かれてる状況をこうやって客観視できれば、自分が学生だった時、もっと楽に生きれたかもしれないと感じます。

もっと早くこの映画に出会いたかった…と、なんか映画の感想からやや離れたところからではありますが、心から感動したものです。

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脚本家やマンガ家を目指す人も是非見て欲しい映画だったりする

 この映画の良かったところとして特に挙げたいのが、細かい描写が実にうまく撮られているということ。

各登場人物の心理が一つの表情で実に奥底まで伝わってきて、おかげで一人一人の名前までは思い出せないにしても、登場人物全員印象に残っています。

印象に残るということは、物語の構成や見せ方を考えていくうえで実に魅力的な人物が作り出せているということです。

中にはクラリネットの音だけで感情を表現しているところなんかもあり、こんな手法見たことないと感心したものです。

映像と絵ではまた伝え方が違ってきますが、「魅せ方」の開拓度はずば抜けているのではないでしょうか?

また、キャラ作りとしてリアルさを出すことは読者に感情輸入をさそうためには必要です。

その点では、このつぶやき。

「悩んでいるんだけど、口に出して言えない…学生友達の間でマジな事言っても、ダサいって言われるから…」

まるで本物のドキュメントみたいに感じて、作品にリアル感を出すにはココが非常に良いなと思いました。

おかげで台詞が台本っぽく感じられないのです。

しかも、よく聞き返してみれば本当の心を誰も言っていないです。ただ別の言い方で言ってます。 

他の映画やドラマではよく使われている手法の「心の声」を一切使ってないのです。

漫画や物語をクリエイトする人は、一度この映画の人物の特徴や見えている視点を区分けしてまとめてみると良いかと思います。

キャラ作りの勉強になると思うし、構成力がハンパないとうのも分かります。

心に残る作品が名作になっていく

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「戦おう、ここが俺たちの世界だ。俺たちはこの世界で生きていくしかないのだから。」

この映画に出てくるこの台詞は人事には思えませんでした。

物語のラストにいくにつれ、この言葉の真実がそれぞれの登場人物のフィルターを通して見えてきます。

今の自分の位置を受け入れて、なんのために生きるのかをしっかり決めて生きていこう。

そうすれば意味なんてものは後から出てくるはずだから。

からっぽじゃない。意味がないことはない。それはこれから生きて行く中で感じ取って欲しい。



この映画、2~3回見たらまた見え方も変わってきます。

実に不思議なんですけどね。

映画冒頭の進路指導の先生の台詞も、実はちゃんと意味があったんですね~。

今回も読んでいただきありがとうございました。

ネタバレしませんでしたが、気になった方は是非レンタル等で一度見るのをオススメします。