人と人が互いに気持ちを伝えることの難しさ
今回は『聲の形』という作品を紹介いたします。
まず、この作品の存在を知らなかったことに後悔。
それだけ素晴らしい作品だったと感じたのは勿論、もっと早く知っておけばよかったと感じる程この作品は人間関係の難しさに切り込んでくれていて、見た後優しくなれます。
いつか見た映画作品に「人生っていうのは優しくなるためにあるんだと思う」という言葉があって、この作品は優しさが溢れていてとにかく沢山の人に知ってもらいたいと感じたのでシェアさせていただきたいと思います。
作者 大今良時
出版社 講談社
2014年度「コミックナタリー大賞」第1位
「このマンガがすごい! 2015」オトコ編第1位
「マンガ大賞2015」3位
第19回手塚治虫文化賞新生賞
このヒロイン格の少女が主人公の男の子がいる学校へ転向してくるところから物語は進んでいきます。
はじめはこの作品は、”障害者への理解や、学校のいじめ問題”がテーマなのかと感じながら見ていましたが、そんな単純なものではなかった。
そして主人公の男の子「石田くん」と物語のキーになっている「西宮さん」以外の人物の立ち位置が微妙に考えさせられるものになっていて、一度見ただけでは気づかなかった部分も見えてくると感じます。
自分は映画を見終わった後、レビュー記事などを確認しているのですが、石田くんがいじめをしていた時に他のクラスメイトの立ち位置にも言及していたのが共感持てました。
いじめっていうのは一対一ではなく、周りの空気が同調させてより悪化させる事もあります。直接いじめをしていなくとも間接的に行う人もいます。
子ども社会にも当然そういった部分はあり、利己的で保身主義な子もいれば、自分に火の粉が降りかからないように子どもならではのずる賢さを見せる子もいたりして。
自分は“男子”の立場で見ていたのですが、年齢を重ねた今、“女子”を見ていたら、確かにこの子ずるいな…こんな立ち位置の子、居たなぁ…とか感じながら視聴していました。自分は悪く思われたくないってのが見え隠れするのは正直気持ち悪いですね。
この事件のせいで、石田くんと西宮さんの時間の歯車が止まってしまった…そこからの自分を取り戻す物語として、2時間程に綺麗にまとまった作品となっています。
これはみんなで鑑賞会する感じではなく、一人でじっくり見るのが良いかなと感じました。
ではもう少し作品のネタバレにならんように踏み込んでいきます。
心情の描き方が秀逸
顔…細かい心理の描写などは、映画やアニメでなくとも、監督や原画・絵コンテを作るスタッフとの意思疎通がないと上手く表現できません。
自分のように映画を作ったことが無い人間は「顔のアップ描くだけじゃん」って普通は感じるのですが、恐らくこの作品では特に表情の描き方はおそらく何度も作画班と打ち合わせをして仕上げたのではないかと想像できます。
他のキャラもそうですが、特に声をうまく発することが出来ない西宮さんの場合は、表情で”見せる&伝える”というアニメーターさんたちの高いスキルが必要です。ただ、うまく描くだけではなく、どんな気持ちなのかを表情のみで伝えるのはよほど描き手と監督さん、作者との意思疎通ができていないと上手く伝わるものが描けないと感じます。
ここが一番難しかったのではないかと。
そしてスタッフが制作の中で協議を重ね、意思疎通したうえで作画をすすめていったから素晴らしい作品に繋がったのではないかと考えています。
主人公からの「視点」というのも秀逸な表現です。「バツ印」をつけるというのはこれまでにない試みではないでしょうか?
他にもネタバレにならない程度にしますが、最後の方の西宮さんの表情をもっとしっかり”見て”おけば良かったように感じます。表情から気づけることもあるんですから。
これはアニメ作品…“フィクションだから”という理由で片付けられるものではないです。
あとで振り返ってみたら「この子はそんなふうに考えていたんだ…なんでもっと気付けなかったのだろうか」という何とも言えない悲しい気持ちになります。
実際に現代で生きている中でもっと様々な声の形に目を向けてなかったのに気づきます。
見るだけでなく、自分たちも作品を通して聲の形に触れながら感じ取ることができる作品になっているのではないか?
そうやって声に真摯に耳を傾けることで、これからの見える景色が変わってきます。もっと優しくなれます。
制作陣がそこまで考えて作成したのだとしてら、“障害者を扱う”という内容が攻めたものとかいう言葉で片付けるのは勿体ないほどの素晴らしい作品ではないかと感じます。
2013年に講談社から掲載されたこの作品の映画化に向き合ってきたスタッフの皆さんに敬意を感じます。
この作品は、先程も書いた通り、攻めた内容であるので掲載もさせてもらえなかった歴史があったようです。でも「載せてくれ」という声が挙がって掲載されるに至ったといういきさつも後で知りました。
雑誌掲載の結果、大ヒットしたそうで…伝わる人、響いた人には本当に支持されたんだなというのが分かります。
そこから大ヒット映画となり、金ローなどで放送されていく流れはみなさんも承知のとおりです。
人生優しくなるためにも、この作品を沢山の人に見てもらいたいです。西宮さんの優しさが伝わる人には悲しくなって辛く感じる人もいるかもしれません。自分もなんだか見てて心苦しく感じた一人でもあります。
それでも、作者が伝えんとしていたものをもっと深く知りたいと感じたので、漫画の方を読んでみたいと感じました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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