感想「チェンソーマン」なぜ若者に刺さる?夢を持てと言われ続けた世代へのアンチテーゼ

王道展開に慣れすぎて刺激を求めていたのか?

この度は閲覧いただきありがとうございます。

周作x.com/DarvishShu)です。

この作品『チェンソーマン』は2026年時点ではかなりのヒットコンテンツとして名をはせていて、世界中で知名度も高くなっていると思います。

そんな作品ですが、自分が初めてこの作品を視聴したのは2026年春頃だったりします。

自分にとってこの作品はノーマークでした。

だってしょっぱなから滅茶苦茶血しぶきが飛び散り~のバイオレンス臭全開の作品というのが分かるからです。

でも劇場版のエピソード『レゼ編』が非常に高い評価を得ており、これは見てみないとあかんかも。憶測で作品を判断するもんでもないよな…と感じるようになり、視聴に踏み切りました。

案の定初回からカオスなチェンソー切断祭りの展開が織りなされるわけですが…それでもだんだん作品内から感じるメッセージをシェアしたいと感じるようになってきたので、レビューとして書かせていただきます。

ジャンプ出身なので王道を行く作品かと思いきや、昔のジャンプの鉄板の『友情・努力・勝利』の真逆を行くような主人公達の立ち回り劇で“つくづく時代は変わったな~”と感じさせられました。

まぁその辺の感じた事はじっくりレビューしてみたいと思います。チェンソーマン知っている人にとっては今更ですけど。






いびつな形をしたヒーロー?

まず主人公のスタート地点がかなり詰んでいるという点…

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
これでは平和を愛する情にあふれた人間には育つはずがありません。
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
本当に救いがない…という状況。さらに1話目から大人達の都合によって突然人生の土俵際まで追い詰められます。…というか土俵外に突き出されてしまったといったほうがよいくらいです。

主人公の儚い思いも届かず……残酷です。

こんな救いのない世界観がなんで今、こんなにも大ヒットコンテンツになっているんだ…

内閣官房長官とか公安対魔特異とかいう課って何やねん!

こんな急な世界観ブッ混まれても思考が追いつかない…

©藤本タツキ/集英社・MAPPA

そんな不信感も抱きつつも、視聴は一応続けてみる事に。

一応、主人公様が死ぬわけにもいかず、「ポチタ」という作品内で唯一のゆるキャラの命を共有するような感じで主人公のデンジ君は蘇り、悪漢たちをチェンソーでズタズタに切り裂いていきます。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
まずここで皆さんは気にならなかったのか?

この「ポチタ」とかいうチェンソーを半分めり込ませたような妙な生き物…

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
なんだこの生き物は?なんでチェンソー半分体にめり込ませてるの?言葉喋れるの…と、ツッコミが追いつかないまま、デンジ君との合体。

こんな流れを普通に受け入れられる皆さんはどこに納得したのだろうか?

意味不明のまま一つになった途端、デンジ君の頭がいびつなチェンソーみたいなデザインに変化します。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
そしてそのチェンソーでゾンビになった末人たちをなます切り。

このシーンが、今の理不尽で無責任な大人達を蹂躙していくようで、“血は出てるけどなぜか爽快だ”と感じた視聴者がいるかもしれませんが…自分の感想は…とにかく慣れるまではグロかった。

作画班、頑張って描いているのは分かりますが、血がバンバン飛び散って目も当てられない惨状を描いていく中で感覚が麻痺してくるんではないのか。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
「こんなナリになってもうたけど、ワイはこの世界で生きていくんや~!」みたいな叫びを感じます。

一先ず助かったデンジ君でしたが、その後の未来が見いだせないまま。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
そこに見た事もない奇麗なお姉さんが現れてからようやく物語が動き出す……という感じになっているのですが、まぁここまで残酷描写のフルコンボでも我慢して見れるならこの先も大丈夫そうな感じがします。
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
1話は、この不安定な世界に入る勇気があるかどうかを視聴者さんに試しているような感じがします。(でも時代は1997年だったりします)
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
それにしても主人公のデンジ君…ヒーローと言うには相容れないようなナリです。

でも令和の時代、彼が支持されている訳なので今の時代にマッチしたヒーロー像としてまず認知してみる事にしました。

いやいや1話目から色々ありすぎて、咀嚼するのにえらく時間を要しました。





現代の若者が心の奥で抱えている感情

視聴を続けながら、どういう部分がヒットしたのだろうか…という部分を考えていたのですが、この物語はまぁ唐突で、冷たく、救いのない描写が多い。

しかしこれが逆に嘘っぽくなくて綺麗事を言っていない、という清々しさとも捉えることができます。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
若者たちの“世の中は奇麗ごとで成り立ってない!”という叫びを代弁してくれているように感じます。

今の若者達は、現実が理不尽で全然優しくないことを知っています。

努力しても馬鹿を見るし、理不尽に打ち切られるし、正しいことを言うと叩かれるし、ルールは守っても報われない…だから「危険で不快で不条理な世界」の方が、むしろリアルに感じるのでしょう。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA

他にも出てくる登場人物の中で、人気キャラとなっている女の子がいます。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
名前がまた独特で、“パワーちゃん”と言います。

彼女は…妙なツノを生やしているだけでなく、嘘をつくし自分勝手で他人を利用するし、反省しないという文面で見れば人気が出るような要素が一つもない感じがするのですが、実際人気があります。

それを自分なりに分析してみると…「普段、言いたいけど言えない本音」を全部代わりに代弁してくれる存在として、男女を問わず強い爽快感と支持を得たんじゃないかと感じます。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
実際にこんな彼女がいたら「好き」とかいう感情よりも「一緒にいて楽」と感じると思います。

他作品と比べても飛びぬけて残酷描写が多いのにヒットしている理由は、性的欲求や承認欲求、社会への違和感、そして努力しても報われない感覚…これらを全部まとめてデンジ君達が肯定してくれる作品だからではないでしょうか?

ちょっと言い方が難しかったかもしれません。

「子ども向け」「ファミリー向け」というターゲットからは完全に外れていますが、強烈に刺さる層がいれば大ヒットコンテンツになります。

この作品から「今の若者が何に疲れているのか」が見えてくるように感じます。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
そして今の若い世代は「安全で正しい物語」に対して疲れていると…

息苦しい社会…

正しさの圧力…

そして夢を持てと言われ続ける疲労…

これらを残酷さという形で“爆発させてくれた”から支持されたんではないかと。

血しぶきが毎度のことスゴイ…

ムリゲーを生き抜かざるをえない者たち

物語の途中でとても印象に残っているシーンがあります。

それは公安対魔特異4課の隊長・岸辺さんからの問答シーン。


岸辺「お前達……仲間が死んでどう思った?」

デンジ「別に~」
パワー「死んだーと思った」

岸辺「敵に復讐したいか?」

デンジ「復讐とか暗くて嫌い~」
パワー「ワシもー」

昔のジャンプに出てくる主人公(もしくは準主人公クラスのキーとなる人物)なら、考えれない受け答えをしています。

昔の少年ジャンプ鉄板の『友情・努力・勝利』の真逆を行くような主人公達のマインドに触れて、本当に時代の移り変わりと共にどんどん魅力的なキャラクター像というものも変わってきてるなーと痛感しました。

アップデートという感じではないです。

ぶっ壊れてきているような感覚です。

まぁ2人共ここまでの境遇が理不尽だったので、情にあふれる人間へと育つこと自体不自然なんですけど。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
案の定、隊長・岸辺さんは「デビルハンターは頭のネジが飛んでなきゃなれない」ということで彼らを“素質アリ”と認め、その後は戦力アップの為に鍛えにかかります。

彼らのことを「ゴミ」と評しながらも、その狂気を肯定してくれます。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
昔だと受け入れられない岸辺さんの対応も今なら聖人みたいに感じてしまうので不思議です。
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
1期の中で、チェンソーマンという作品を一番象徴しているのがこのシーンだと感じました。

田舎のネズミをたぶらかさないで

デンジ君はなんとか借金生活からデビルハンターという職業に就職(?)することで普通の生活が出来るようになりますが、まだ教養的な部分も含めて人生の課題は山積みです。

そこで優しそうなお姉さんに救われる形になれば良かったのですが、そうスムーズに事が運ばないのが現実。

彼を救ったマキマさんという女性…彼女は内閣官房長官直属のデビルハンターということで、怪しげな大人の雰囲気を醸し出します。

それに対し女性に対して殆ど免疫のないデンジ君なので、見てて悲しい位精神的に支配されていきます。

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
感情を見抜かれた上で難題をお願いされたら断る選択肢なんて選びようもない。

自分達はこのやり取りを画面を通して俯瞰して見られているので、ある程度落ち着いた見方はできますが、当の本人はあそこまで顔を近づけて言い寄られると、なすがままになってしまっても仕方ないです。

この女の人…やり方がズルいな~
原作を読んでいないのでこの先の彼女との関係がどうなるかは分からないのですが、何となくだけどマキマさん…ラスボスになるような雰囲気と風格を醸し出していますね。

彼は田舎から出てきたネズミなんだから、まだ自己のマインドが確立していない段階から色々たぶらかさないでほしいものです。

彼はまだ“主人公”という主体的に動ける人物になりきれていなくて、周りに流されながら漂っている存在に感じます。

これからどういう人たちと関わり、学ぶかで少しずつ自己の形成…すなわち物語の“主人公”へと成長していくのではないかと。

別に立派な夢がなくても世界を救うような使命感が薄くてもいいのです。

今の時代に支持されるような主人公になっていけば…

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
まぁ真の主人公になるには、マキマさんのような誰かの意志にコントロールされて動く「受動的」な状態から「能動的」に動けるようにならないといけません。

これからデンジ君はいろんな誘惑や荒波を受けながらもその階段を登っていく事でしょう。

「夢を持て」「頑張れ」と言われ続けた世代に対する、強烈なアンチテーゼ作品チェンソーマン

©藤本タツキ/集英社・MAPPA
はじめは血戦というか血が飛び散りまくる滅茶苦茶な物語だと感じていましたが、ハナッから「80点を全員から取る作品」より「120点を一部から取る作品」の方を狙ったと感じると大ヒットコンテンツになったのも納得できます。
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
「誰に刺すか」を先に決めたらあとは自分のクリエイターとしての情熱のままに突き進む藤本タツキ先生の手腕、お見事です。

知っている人にとっては当たり前の事ですが、この作品には早川君や様々な魔人といったデンジ君に負けないくらいの魅力的なキャラクターが出てきます。

バイオレンス系が苦手で見ていない人がいましたら、自分みたいに食わず嫌いをせずに一度視聴してみるのをお勧めします。

個人的にはこれから視聴する予定の『レゼ編』…楽しみです。

「チェンソーマンで『大ヒットの裏にある圧倒的なクリエイターの情熱』にシビれた方は、同じ藤本タツキ先生の『ルックバック』のレビューもぜひ読んでみてください。あちらも『創作への執念』が爆発している名作です。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。