感想『葬送のフリーレン』人間を別種族の視点から見てみると

エピローグだって色々

物語では無事平和を迎えても、その後の世界は続きます。

魔王とやらを成敗したらハイ終わりというわけではなく、その後も人生は続ていきます。

そんなエピローグを描いた作品?という印象でしたが、視聴していくうちにもっとこの作品の魅力は深い所にあると感じたのが今回レビューを書かせていただく作品『葬送のフリーレン』

レビュワーの皆さん 閲覧いただきありがとうございます。

周作x.com/DarvishShu)です。

今回は、ロードショー枠でTV放送されるくらい話題作となったこの作品のレビューをお伝えします。

原作ファンの方は勿論、まだフリーレンを知らない方も是非お付き頂ければ幸いです。

一言で言うと“俯瞰して見る目を養える”作品です。人生において必要な思考です。だからアニメ会社もこの作品に力を入れたのが頷けます。

人間で言ったらオバハン。エルフ側から言わせたら赤ちゃん

アニメ制作陣がかなり力を入れてこの作品を世間にプッシュしているのは見ていて感じます。

とはいえ、この作品…基本はエピローグの物語という事で、魔王という名の悪の親玉も倒された世界。

そんなに激しい戦闘はなく、作画にカロリーを必要上に割くほどの動きもないです。(無い事はないのですがその辺のネタバレは控えます)

淡々と主人公であるフリーレンという凄腕魔術師の視点で物語が進んでいきます。

ちなみにフリーレンさんは人間と違いエルフという種族で、超長生きする設定です。(あくまで人間基準ですが)

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
見ていく中で、初めは“昔遊んでクリアしたドラゴンクエストとかのゲーム…魔王を倒した後の世界っておそらくこんな感じで続いていったんだな~”と、昔クリアした『ドラクエⅢ』のゲームの事を思い出しながら視聴していました。

でも色んなイベントに対してもどこか達観した冷めた目で見ているフリーレンの表情が気になりはじめます。

勇者として旅をしていたヒンメルさんという方が寿命で亡くなったあたりで…

無くなる前に皆で流れ星を見に行くのですが、その時に感じている人間とエルフとの時間の感覚に違和感を感じました。

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
長寿のエルフから言わせたら“50年後?そんなのすぐじゃん”

でも人間から言わせたら“50年後…もう私はこの世には居ないだろう”

時間間隔が違うのです。

ここで大昔読んだとある書籍を思い出します。
ゾウの時間ネズミの時間/本川達雄 著 中公新書

『人単体だと理解できないだろうが、寿命が違うということは総じて時間の流れる速さが違ってくるという事』
それをゾウとネズミを例に分かりやすく記してくれた本。

その内容を思い出したおかげでなんだかこの物語の本質がすこし理解できました。

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
これはエルフの視点から人間を見たらどういうふうに見えるかという極めて類を見ない作品だ…と。

フリーレン視点で見れば


エルフに言わせたら100年なんてあっという間。

だから人間の一生なんて短く感じるのでしょう。

昔の哲学者みたいなオッサンが「人生など一瞬」「人は生を受けてもほんの一瞬生き死んでいゆく」など人生の短さをつづった名言が残されています。

しかし我々はどこまで行っても人間なのです。

ゆえにこの言葉の意味は分かるのですが、感覚としてはいまいちピンとこない…これが大多数の感じる所では無いかと思います。

しかし実際にフリーレン視点で物語がつづられていくと、その感覚が不思議と分かるようになってくるので不思議です。

物語上ではこの世を去ってしまったもののこのフリーレンの世界観を勇者であるヒンメルさんだけはなんとか彼女の人生観を理解しようとしていたのも伺えます。

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
彼は生前自分の銅像を建てようと、制作現場に立ちあったりしていますが、そこで人間からしたら意図が理解できないような言葉をフリーレンに対して残しています。

“君が未来で一人ぼっちにならないようにするため”

さすがはヒンメル…と感じたのは作品を視聴してからだいぶ後の事です。それくらいこの物語の中で語られる言葉は奥が深い。

時間というのを考えさせてくれます。

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
ちなみにフリーレンは年齢は1000歳以上という設定。

人間から言わせたらもう“オメガグランドマザー”という感じですね。

彼女が旅をする動機も実に興味深い。

「人間の寿命は短いってわかっていたのに、なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう。」

人間を知る旅へ、かつての勇者パーティの弟子たちと共に進んでいきます。

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
途中、魔導士志願の女の子たちが口喧嘩をしていて、フリーレンはその様子をぼーっと見ているシーンがあります。
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
これ…彼女目線から見たら、ハエ2匹がブンブン飛び回っている様を見る人間みたいな感覚に見えるんだろうかとふと感じたりします。

この作品内で起こる出来事は、フリーレン目線で見ればほんのささいな事ばかりなのです。

時間軸が違うということはこういう感じなんだ…

そういう感覚がすぐではなく、視聴していく中でちょっとずつ感じていけば良いのではないでしょうか?





魔法というテーマで、人を幸せにする本質を語ったエピソードなど、この作品の魅力は沢山ありますが、まずは他の作品とは違う…この時間軸の違いから感じる不思議な感覚を楽しんでみるのがフリーレンの醍醐味に感じます。
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
ネットの感想記事を見ていると、“最強キャラは誰だ?”とか“魔法ランキング”みたいな優劣を考察するものが多く見られますが、物語の本質はそういう所ではないのではないか…

フリーレンから言わせたら些細な事でどうでもよいのかもしれません。

ヒンメルとの出会い&別れをきっかけに、人間の時間や感覚に寄り添おうと歩み寄っていくフリーレンは今後どんな事を感じ、冒険を続けていくでしょうか?

ヒンメルがこの世を去ってから残党さんたちも賑やかになってきているので退屈な旅にはならないと思いますが、彼女には是非“人間時間”を楽しんでもらいたいと感じます。

そして人間に寄り添ってみた後、どんな感想を人間達に伝えてくれるか楽しみです。

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

物語の「静」の部分が美しい

主人公の元に慌ただしくイベントが降りかかる今どきの作品と違い、珍しい位ゆったりした感覚で進んでいくストーリー。

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
でも魔法をバンバン打ち合う戦闘シーンは自然をバックに爽快感あります。

静と動のシーンに合わせた作画の強弱の付け方も良かった。

今我々が感じている時間、人生というものをふりかえる良い機会となった『葬送のフリーレン』

自分と同じようにエルフ視点から見た時間に関する不思議な感覚や魔法の意義など、何か日常と照らし合わせてひっかかった部分を感想記事として投稿している人も多く、反響の大きい作品だったと思います。

ちょっと哲学チックな作品とも取れます。

今10代の視聴者さんが20年後とかにこの作品を見返してみれば、また感じ方が違ってくるのではないでしょうか。

自分がもし学生だったら、この作品を見たらまず“このキャラが強い”とか“誰と誰がカップリングするか”とかいう視点でしか見れなかったと思います。

でもある程度年齢を重ねた今、この作品を見ると全然違う所に目が行きますね。

この作品だけじゃないのですが、改めて日本のアニメやクリエイターさん達のレベルの高さを感じるこの頃。

どんどん素晴らしい作品を世界に発信していってほしいです。

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。