望郷リベンジャーズ 前編 ~壁ドンでタイムリープ!?
【Chapter1】
2032年、日本全国ですっかり少子高齢化と過疎化が進んでいた。
主人公であるタカミチ君(アラフォー)の故郷である高知県四万十川も例外ではなかった。
最後の清流と呼ばれたこの地域も、10年以上前に町内の大きな紛争が起こった事が原因で、ついに合併して存在が消えてしまった。
町は荒廃し、空き家ばかり。かろうじて警察施設や役場は存在していたが、厳しい財政に何も抗えずにいた。
整備ができずほったらかしにされた道路などインフラも乱れていた。
かろうじて警察機関があるこの地域(四万十町)で、タカミチくんは仕事を失い、今は都内へ出稼ぎとしてフリーターをしている。
物語は、そんな仕事休みの日、アパートで横になってニュースをみているところから始まる。
タカミチ(以下“た”):あぁ…休みとはいえ退屈だ…
仕事の無い日も外に行けば金のかかることばかりでろくに外出もできないし…こうやって家でくつろぐしかないか…
テレビから流れるニュースをながら見しながらアルコールを流し込むタカミチ。今日は週に1回の休日だ。
ニュース:ここでニュースをお知らせいたします。
高知県、四万十川沿いの車道からです。
荒廃し、人が寄り付かなくなった四万十川の道路の突然の崩壊によって、車が土砂崩れに巻き込まれるという凄惨な事故が起こりました。
この事故により、本日未明、運転されていた方の死亡が確認されました。
死亡したのは、四万十町●●介護センターに勤務の橘ヒナタさん
道路は崩壊の予兆がありましたが、他に利用できる車道が無く……救急隊員の遅れもあり……
た:橘…ヒナタって…
俺が高知にいた時に付き合ってた彼女じゃねえか! 死…って、なにがあったんだよ!
それにこんなに道路が荒れちまって…草も荒れ放題で整備されてない道ばかりで…行政は何やってんだよ。
昔の彼女が荒れ果てた四万十側沿いの道路で事故に巻き込まれて亡くなってしまったという凄惨なニュース。
さすがに葬儀に参加するため、自らの故郷である高知県四万十町へ急遽戻ることとなったタカミチ。
葬儀には間に合ったが、心のなかではモヤモヤでいっぱいだった。
…そう、これは人災だ。防げたかもしれない事件なんだという想いが。
葬儀で受付をしているのは、現在役場勤めしていたヒナタの弟だった。
橘ゆうた(以下“ゆ”):あっ、たかみちさん。…お久しぶりです。この度は姉の葬儀に参加いただきありがとうございます。
た:ありがとうございますじゃねえよ。なんでそんなに落ち着いていられるんだよ。
町が荒廃したのはお前たち行政がだらしないってのも原因じゃないのか?ちゃんと町の事を考えている役人がいないからヒナは死んでしまったんじゃないのかよ?
この事件、普通に受け入れてんじゃねぇよ。
ゆ:確かにそうなんですけど、僕にはどうする事もできなくて。その…仕方なかったんですよ。
いや、そりゃあ悲しいですよ。その…自分のたった一人の姉…ですし……。
でももうここまで寂れてしまった町を税金もほとんど使わせてもらえないのに僕らだけで整備して立て直すなんて不可能に近いですよ。ここ四万十町は今はもうずいぶん税金を回してもらえない見捨てられた町として認知されているんで…しょうがないですよ。
た:「しょうがない」とか「仕方ない」で済ますなよ。姉ちゃんが今回その犠牲になったようなもんなんだぞ。お前の家族なんだぞ!悔しくないのかよ!それになんだよ、その覇気のない返答は!
ゆ:たかみちさん。葬儀の会場です。大きな声は控えて下さいよ。
…そりゃあ悔しいですよ。でも仕方ない…と…いうか…
覇気のないゆうたに頭にきたたかみちは葬儀場にも関わらずゆうたに詰め寄る。
周りの目もあったけど、こんな結果でヒナが居なくなってしまったことがやりきれなかったからだ。
そして怒りのまま勢い余ってゆうたを壁に追い詰めてしまう。そして壁ドンをして怒鳴りつけようとした。
…その時。 急に光に包まれたような感覚を受け、タカミチは意識を少し失ったのだ。
その後気がつくとどこかわからない場所へワープしてしまったのである。
た:なんだよここは?一体何が起きたんだよ。
さっき勢い余って壁にゆうたをおいつめただけなのに…なんか変な夢でも見てるのか?
というかさっきと町並みが違う……
これは、俺がまだこの地域で暮らしていた町の感覚に……似てる!
ここはまさか昔の故郷…なのか?どうなってんだ!なんでこんな昔の場所に自分がいるんだ!
【Chapter2】
町を歩いていくうちに状況は理解できた。
どうやらここは俺が社会人になってすぐ。そう…まだ学生を卒業したばかりの頃の四万十町だ。
新聞やネットで状況は理解できた。本当にまだ信じられないんだけど、ここはそう…10年前の2022年。俺がこの町を見限って逃げ出す直前だってこと。
た:そうだ…「仕事も魅力もないこんな町に未来はない」とか言って、ここを飛び出して逃げていく前の段階だよな。
(でも、ここからの俺は実際、現実から逃げてばかりの人生だった…
何もかも逃げてた。そう、好きな人でさえも。
…でも今は逃げる前。
とすると…まだヒナは生きてる!まずは確認だ。ヒナに会いに行こう。
本当に昔の四万十町に戻ってきんなら…橘家にはヒナがいるハズ。
…信じられないけど、ヒナに合えれば確信できる。会いにいってみるか…
半信半疑の中、足を進めるタカミチ。
彼女の家に行く途中、公園で子どもがいじめられているのを見つける。
た:おいそこ!なにやってんだ!
いじめっこ:あ、やべぇ。大人だ。くそっ運が良かったな!けっ
た:まったく、人を見た目だけで選びよって…ろくな大人にならねぇぞ!
ゆ:ありがとう、おにいさん助けてくれて。
た:ああ、…ん?その覇気のない声はなんか面影があるぞ。まさかゆうたか?
そのいじめられていた子は吉岡ゆうた、彼女の弟だった
ゆ:確か、おねえちゃんとよく一緒にいた…
た:間違いない!あぁそうだ。タカミチって言うんだ。覚えておけよ。
将来絶対にカリを返してもらわなきゃだからな…
ゆ:借り? …将来?
た:まぁそこは今は深く考えないでいい。「今は」だ。それよりもゆうた。突然だけど聞いてほしいことがあるんだ。おれはお前のねえちゃんが大好きだ。それを交えたうえで真剣に聞いてほしい。ちゃんと聞いてくれるか?
ゆ:うん。
た:信じてくれなくてもいいけど…ホントちゃんと聞いてくれよ。
この先なんだけどな、今はちゃんと理由は分からないけど四万十町は滅茶苦茶衰退する。
町外と内乱起こしたりして、国からの印象が悪くなって税金とか入れてくれなくなるらしいんだ。
信じられないと思うけど、10年後の未来、荒れ果てた四万十町で道路の事故に巻きこまれて、おまえの姉ちゃんは死んでしまうんだ。
おまえはねえちゃんが死んだってのに「仕方ない」「しょうがない」って言ってばかりのうつむき加減の弱弱しい表情している奴だった。今のお前の根っこは将来も変わってない。だからゆうた!おまえは警察、そう、警察官になれ。
ねえちゃんの事故を未然に防ぐためにも、役場じゃなくて警察に入って、来るべき問題をきちんと解明する側になってほしい。
来るべき日、っと…これだ。メモ渡しとくから事故にまき込まれないようにねえちゃんを守ってやってほしい。分かったな!。姉ちゃん、大事にしろよ。
ゆ:うん、なんだか突然で信じられないけど…僕が公務員を目指してた事、誰にも話したことなかったのにタカミチさんが言い当ててくれたから…一応信じて覚えておく。警察官だね。分かったよ。僕、警察官になるよ。
た:よし、未来のおまえよりいい返事だ。男と男の約束だぞ。破んなよ!
じゃ、生きてるっていうと変だけど、ねえちゃんに合わせてくれないか。自宅まで見送りしてやるからさ。
この時代のゆうた、ヒナタの弟と約束を交わした後、ついに橘家へ向かう。そう、彼女の家へ。
ゆ:ちょっと待って下さい。姉を呼んできます。
た:信じられないけど、生きてるんだよな。本当に過去に戻ってきたんだよな…
もしかしたら階段から落ちたとかで長い夢を見てるだけかもしれねえ? けど、きっと……神様が最後にもう一度、ヒナに会わせてくれたんだ。
橘ヒナタ(以下“ヒ”):どちら様ですか?あれタカミチ君。
どうしたの?
…っていうかさ…タカミチ君って…いつも急に来るね。
急に彼女に会い、行きている実感を得たタカミチは涙ぐむ。感情が抑えきれなかった。
た:ヒナ……あれ? 何で、泣いてんだ俺? ヒナ…なのか?ヒナだよな?良かった本物だ。良かった。
その…(暫く涙)ヒナ…無事で良かった。本当に良かった。
…俺、どうしてもヒナに伝えたいことがあるんだ。
タカミチは感じた。
未来の事実をきちんと伝えておかないといけない。そのためインパクトのある伝え方をしよう!彼女の命がかかってるんだから!
た:ヒナ!絶対に近い将来、財政がまずくなって道路が荒れて事故が多発しはじめる、ここで暮らすんじゃなくて他の土地へ移り住め!この地を出ろ!
ヒ:どうしたのよ。怖そうな顔して。
そもそも無事って大げさよね~。さっきまでバイト行ってて戻ってきただけだよ。
た:(どう伝えたらいい…未来の話を普通に言ってもきっと信じてくれないし。逆に不吉がられて聞いてもらえないかもしれない…でもなんとか伝えておかないとヒナが死んでしまう。どう伝えばいいんだ…
なら…なら、いっそ壁ドンでもしてインパクトをつけてから……そんな…この頃ってまだ付き合って間もなかったのにそんな大胆な事したらキモいとか思われるんじゃ…
いやいやいや!恥ずかしがってる場合じゃない。ヒナの命がかかってるんだ。伝えるんだ!)
た:ヒナ!
ヒ:どうしたのよ。泣いたり急に真剣な顔になったり、今日のタカミチ君はほんと変!別人みたい。
た:伝えたいことがあるんだ!俺の顔をよく見て!…たのむ!聞いてくれ。…って、おっとととと。」
意を決して、勢いで告ろうとヒナに向かって壁ドンして話そうとすると、勢いあまり態勢が滑ってしまったのである。そしてその勢いでとなりにいた弟のゆうたに向けて壁ドンをかましてしまった。
その途端、また葬儀の時に起きたような光に包まれたのである。
【Chapter3】
た:な…なんだよ。どうなったんだ。急に光に包まれて…それにここは?
…ってなんだか俺の手、ごわごわしててオッサンくさい…まさか…
鏡に映った自分を見て、たかみちはなんと現代に戻ってきてしまったことを理解する。
場所は故郷の近くだったので、とりあえず近辺を歩き、確認して次第に状況を受け入れ始めていた…そんな矢先。勢いの良い声がタカミチを呼ぶ。
ゆ:たかみちさん!たかみちさん!!よかった。無事だったんですね。
僕です。ゆうたです。覚えてくれてますか?
とりあえずは、まず僕の事務所に来て下さい。車でご案内します。こちらです。
た:覚えてるも何もさっきまで小さかったのに急に立派になってるからビビったよ。俺よりもなんか身長高いし、雰囲気もなんだか違うというか…表情が凛々しくなってるし。……っておまえ、まさか今仕事は!
ゆ:そうなんですよ。気づきました?
僕は今、警察官なんです。ゆうたさんが未来を変えてくれたんです。
四万十町内では話してくれた通り紛争が起こり、見事に荒廃してしまい悲惨な状況になりました。
だから僕ら警察官が懸命に対応に乗り出しているのです。
た:そうか!っていうかおまえ役場よりもこっちの方がにあってるよ。いや~無事警察官になれたか…良かったよ。
…いや!そんなことよりもだ。その……ヒナは?
ゆ:残念ながら荒廃した道路の事故に合い死んでしまった事実は変えられていません。
姉はたかみちさんの言う通り事故に巻き込まれてしまいました。姉のことは本当に悔しいです…
た:そうか…なんてこった…あの時“壁ドン”してでもハッキリ伝えていれば…
ゆ:そうなんです。その壁ドンのおかげでたかみちさんが過去に戻り未来を変えることが出来たんです。
だから落ち込まないで聞いてください。どうやら僕に壁ドンをすることで、たかみちさんは過去にタイムリープすることが出来る体質のようです。
た:タイムリープ?なんだそれ?
ゆ:簡単に言うと、過去に一時的に戻ってその過去の出来事を書き換えることが出来るってわけです。そのおかげで僕は実際に警察官になれたわけですし。四万十町の内情を知ることが出来たわけです。
あの時渡してくれたメモの日に、その通りの事件が起こったので、たかみちさんの言ってる事に対して確信が持てたんです。過去を変えてくれたんだって。
た:なるほどな。おう……だんだん分かってきた。つまり過去にまた戻って、町の荒廃を防ぐ為の布石を打っておけば…
ゆ:事故は起こらずに姉は助かります。
た:なるほど。ってかおまえ昔に比べてえらい前向きになったなぁ。
ゆ:あなたが変えてくれたんですよ。僕の運命が好転できたように姉の運命だって変えることが出来るかもしれない。
あなたにはその可能性があるんです。
た:いいぞいいぞ。希望が見えてきやがったじゃんか。じゃあ早速壁ドンして過去に行って…
ゆ:ちょっと待ってください。だからってただ過去に行っても何か変えることは難しいでしょう。
内乱が起こってるくらいの規模なんです。そこで、過去の四万十町の情勢がどうなっていたか?そしてそこをどうテコ入れすれば今の四万十町が変わるかというのを警察の視点から説明します。
た:おう。要するに重要人物がいるってことだな。しかもちゃんと調べてきたんだな。警官が板についてるじゃねぇか!
ゆ:はい。過去を変えたあなたに再開するまでは半信半疑だったのですが、お会いした時に説明しようと決めていました。こちらのホワイトボードをご覧ください。警察の方で調べた今起こっている問題を説明します。
重要なのでしっかり聞いてください。(観客席にも目を配りながら話す)
事務所へ到着したゆうたは、さっそくホワイトボードと写真を元に、この時を待っていたとばかりに過去の話をはじめた。
ゆ:まず、四万十町の地図です。この四万十町全体を仕っていたボスがいます。それが四万十川の鮎マニア。そして『四万十卍会』の鮎宮寺堅(でんぐうじけん)。通称アユケンと呼ばれています。トップである彼がおかしくなってから四万十町の衰退が激しくなったといっても過言ではないです。
よって、彼とうまく関係を取り持つことが未来の四万十町のかじ取りとして必要です。
た:でも『四万十卍会』って大きな組織のトップだろう。そんな組織が当時社会人未経験の俺なんかの相手をしてくれるのかよ。
ゆ:その点は大丈夫です。組織に潜入する為の情報を調べておきました。
彼は非常に用心深い人間ですが、とある合言葉を言えば味方だという確信を持ってくれます。
年齢や立場は関係ありません。ただしきちんと合言葉を言わないと以後一切かかわってくれなくなります。
た:初めが超重要ってことか…でもそのためのミソを抑えてくれているから助かるぜ。ゆうた。
た:彼とうまく顔見知りになったところで彼の仲間たちをうまく取り持つことが彼との信頼関係を築くことに大きく前進します。組織の人間を取り持つ事ができます。
早速ですがアユケンさんがおかしくなった一番の原因。
『四万十卍会』組織の一番隊隊長「林田鮎樹(はやしだあゆき)」。通称「パーチン」と呼ばれている彼。
た:パーチン?
ゆ:パーチンです。発音が違います。
ゆ:…そして、昔彼の盟友で二番隊長だった男。名前は分かりませんでしたが、おでんが大好きだったことから、通称「オデンスキー」と呼ばれている彼。一番隊二番隊という良好だった彼らの仲が、ある時から急に悪くなり、ある時オデンスキーさんが、謎の組織の仲間に入るという事で、パーチンのたもとを分かったのです。
その後、裏切られ怒り心頭のパーチンがオデンスキーの実家である西側の「西土佐」へ侵攻し始めたのです。
四万十卍会としても、このままでは四万十川の下流から海への退路が断たれてしまうということで、パーチンも引くに引けなくなり、町外だけでなく県外、全国からも総スカンが入るくらいの紛争に発展してしまいます。
そして税金という名の予算を入れてもらえなくなった…いわゆる経済制裁を呑むしかなくなった四万十町は急激に衰退していくのです。
調べていくうち、「根っからの悪党でとんでもないたくらみを推し進める」、通称NATTOという謎の組織がアユケンの仲間であるオデンスキーを調略させていて、争いを裏で仕込んでいるという噂を聞きますが、こちらは現在調査中です。
とにかく、アユケンさんの仲間達が追い詰められて無茶をした結果、殺伐となった現在に繋がっているのは事実です。現未来ではアユケンさんも抗争に巻き込まれ、殺害されており、仲間たちは刑務所に服役中です。
パーチンが追い詰められて無茶をしないように。これ以上オデンスキーさんとの溝が深くならないように抗争が始まる前の10年前に戻ってなんとか説得してくれたら、四万十町の荒廃が免れ、姉が助かります。
お願いです。アユケンさんに会って2人の仲を取り持ってください。
た:長い話だったけどさ。
わかったよ。要するに、パーチンとオデンスキーの抗争が始まる前にアユケンっていうボスに仲介してもらう段取りを組めってことだろ。やってみるよ。それでヒナの命が助かるんなら。
…ついでに四万十町の自然や暮らし、未来が守られるなら。俺が救ってみせる。俺だってこんな未来はいやだしな。
たかみちさん。厳しい旅になりそうですが、姉を救って下さい。
僕にできるのはこれくらいしかないんです。お願いします。
た:分かった。お前の勤勉で見違えるような姿見てたらやってやるって気分になったよ。もし難しそうだったら過去のお前使って戻ってくる。
ゆ:頑張ってください。こちらも何か手掛かりになるようなことがあれば調べておきますので。
た:ああ。じゃあ…変な気分だけど壁際…行こうか…
ゆ:はい。まさか壁ドンがタイムリープのトリガーになるとは思いもしなかったのですけど。
た:はは…そうだな。じゃあ体張ってくる。
タカミチがゆうたに壁ドンをすると本当に光りに包まれ、10年前へのタイムリープが起こるのであった。